☆ム・マン☆

*全ての虚者と∀の舞踏歌*
――今を仕舞うは永遠を躍る――
★Non-Linear Dance★
翁童と仮の人の会話を反芻しながら、昼日中の、人もまばらな車輌の座席に腰掛けていたのは、何かの用事で出かけた訳では無かったはずで、母親が踏む足踏みミシンの縫針に縫われて仕舞った、額の傷跡を元に、新たな巣作りするのが本意であったような氣もするのだけれども、曖昧さ加減を仕事としていたのかどうか、目的なんぞは大した事では無くなったまま、自動人形のようにフラフラと出向いた先の観念幻想であった。
ひょっとすると、二本の線路が錨となって、まるで地海に浮かぶ方舟を想起させる、鉄の塊の軋み具合が、海中生物の鳴く歌声や、胎児たちの戯れ合い声に変わる瞬間こそが、その時の自分の生理に必要であったが為に、わざわざ大儀な体を駅まで運ばせたのかも知れぬ。
鋼鉄の箱が、巨大な水生生物めく、全身を身悶えさせて洩らす、嬌声にも似た響きには、日常という悪夢から解放される生生しさが共鳴するのであろう。どうでもいいように、自動器械さながら、プラットホームから車輌へと、体を放り投げて座席に腰掛ける。
ほんの少しの間の内に、無視続けられた哲学が、蟲の息へと変わり果てた、美的センスの欠片も、寸毫の詩情も無い、四角四面の吊り広告と液晶画面から顔を背け、面白みの欠けた乗客を人形化しながら、グレゴリー・ザムザよろしく、毒蟲になった自分が、誰もいない車輌の長椅子に寝そべり、春の日差しを麗かに浴びながらの、新たな旅立ちをぼんやりと夢想しつつ、電車の車掌の低くくぐもった、手馴れた様子だが妙に不埒な声色を使ってのアナウンスを聴くともなく聴いていたのだった。
「つぎはぁ~」そこまでは夢現(ゆめうつつ)であったが、一瞬、間を置いて絞り出された次の言葉に、二つの境界に跨りながら恍惚としていた私は、強制的にたった一つの世界へと、羽交い絞めにされて仕舞った。
「オマエだ!」乗客は他にもいるのだが、誰一人氣付かぬ風の中を、まるで死を想わせるような絶望的文句が、誰でもない私に向かって放たれたのだった。
「つぎは、オマエだ!」と言い、一息おいて、畳み掛けるように付け加えた言葉、「開く扉は無い。出口は無いのだ」――ただただ声のみで、顔も素性も知らぬ赤の他人が、私のみに向かってそう断言した事によって、引導を渡された氣分の私は、その言葉を、溜息と朋に吸い込み、望んでいた事が今や成就せり!と、この世界とは絶対無関係の位置をとることで、唯我独尊たる寂滅を味わおうと想い起ったのだ。
そうすると、その電車の線路は、クライン壺状の笛の音が、淫らに咲く理を含んだ、非線型・Non-Linearで出来ていているのが分かったし、人類に子孫はもう必要無いのだと、合点がいったのである。
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by hitohiso | 2015-09-11 20:35